ロシアのおばちゃん達がプーチンの戦争を支持する理由

ヒトリゴト

4/2。

ロシアのウクライナ侵攻が始まって一ヶ月以上経ちました。少なからずロシアに良き想い出がある身としては、今回の戦争の背景は気になるところです。特に、ロシア世論や侵攻の動機については謎が多いと感じてきました。日本の報道では限界あるので、WSJ等の海外ソースをあたってみたりもしましたが、欧米の主張ばかりでいまいち腑に落ちない。

そんな時、米国シンクタンクであるウィルソン・センターのカミル・ガリエフ(Kamil Galeev)というロシア人研究者の解説に助けられました。彼は侵攻から間もない2/28時点のTwitterで「その後ロシア軍がどう苦戦するか」について正確に言い当てていたことで注目されている若手です。いま振り返ってみるとわかりますが、開戦直後である2/28の時点で「プーチンの戦略的誤算」について、英語圏向けにあれだけ説得力のある論拠を提示できていた人は他にいないんじゃなかろうか。

いずれにしても、1ヶ月経ったいまロシアが苦戦していることは明らかなので、今さらそのことを云々するつもりはありません。私が注目したのは、カミル・ガリエフがロシア人だからこそ知り得る、ロシアの文化的・精神構造的な背景を解き明かしていることでした。欧米ジャーナリストのロシア分析で腑に落ちなかったことも、彼の解説でやっと納得できた部分が多々あります。

おばちゃんが戦争を支持する理由

中でも「Imperial Reboot (帝政復古)」と題された直近4/2のツイートは興味深かったです。これまた非常に長いスレッドなので、ごくごく一部ですが個人的に気になったところだけ紹介します。

Now the third reason for Russian turning into Donbass is that should Putin keep power, Russia will be obsessed by revenge and revanche. Russian public opinion absolutely will view peace with Ukraine as huge Putin’s defeat. It already does

Kamil Galeev (@kamilkazani) Apr.2

カミルは今後ロシアがどうなってゆくかについて、3つのシナリオを提示しており、そのひとつが「プーチンが政権に残り続ける場合は、ロシアは巨大な北朝鮮になるだろう(=ドンバス化する)」というものでした。その論拠のひとつがこれです:ロシア世論はリベンジと失地回復に執着するあまり「ウクライナとの和解はプーチンの敗北であり恥である」と解釈するとのこと。えええ?Σ(゚Д゚lll)

日本のように欧米の情報メインで報道が成り立っている環境にいると、戦争を終えて和解するのはイイコトだと思えそうだけど、ロシア世論はそうは思わないというのは驚きでした。とはいえ、カミルの言葉はプーチンの支持率が80%を超えたという直近の報道とも一致しています。
ただし先に断っておくと、ここでロシアの世論をリードしているのは60歳前後のシニア世代だということです。(ロシアも高齢化社会でシニア人口が多く、戦争に反対している若い世代は人口が減ってきている世代です)

さらに衝撃的だったのは「ロシアのおばちゃん達が強烈に戦争を支持している」という事でした。なんで????と思ったら、こういうことだった。。。↓↓↓

たとえば、ロシア国防部隊に所属していた息子をウクライナの戦闘で亡くしたとある母親のインタビュー。彼女はそれまでウクライナの事など考えたことも無かったし、ロシアの軍事作戦がダメダメだった事も理解しているといいます。しかし彼女はインタビューにこう答えたのです:「こんなにも多くのロシア男児が亡くなった以上、私たちはもう前進するしかありません。勝利を掴むまで突き進むのみです」(原文)

なぜ戦争で息子を亡くした母親が、その原因となった誤算だらけの戦争をより一層支持するのか?プーチン政権の国内向けプロパガンダが功を奏しているのも理由のひとつでしょうが、私には以下の説明のほうが説得力がありました:

She won’t accept her son died in vain. Well technically he didn’t. A grieving mother gets 7 441 000 rubles + monthly allowance. But she also needs clear consciousness (and social recognition). Will she ever admit her son died on a criminal war? You’ll never manage to convince her

Kamil Galeev @kamilkazani Apr.2

「彼女は息子の死が無駄だったと受け入れることはできないだろう。厳密にいうと息子は無駄死にした訳ではないのだが。戦死者の遺族(母親)は7,441,000ルーブルに加え、月々の遺族手当まで貰えるのだから。しかし母親はそれだけではなく、自らの心の潔白さと社会からの注目を必要としている。そんな彼女が、自分の息子が犯罪者の戦争で死んだなどと認めることができるだろうか?彼女をそのように納得させることは誰にも不可能だろう」

たしかに。。。これなら分かる。。。それまで国際問題に全く関心の無かったおばちゃんが、ある日とつぜん自分の大切な息子を戦争で亡くし、国家プロパガンダによって彼は英雄だったと讃えられ、多額の見舞金を受け取ったなら。。。彼女にとってはもう、戦争を支持して自分の息子の行いを正当化する以外に悲しみを紛らわす方法はないのではないかと。

もちろん、この母親が西側の報道を日常的に見聞きできる立場であったなら、戦争を支持する気分にはならなかったかも知れませんが、情報統制されている今のロシアではカミルの言葉のほうがリアリティがあります。もし自分がロシアの地方で生まれ育ったおばちゃんだったら、国営放送以外のニュースに触れる機会などないでしょうから。

シニア世代と若い世代のすれ違い

現状、ロシア側はウクライナとの戦闘ですでに大量の死者を出しているし、戦闘が長引けば長引くほど人的損失は広がるのは避けられません。カミルによると、身近にいた親戚や友達や近所の人などを戦争で亡くしたロシア人はこのように考えるそうです:
「わたしたちのロシア男児たちが戦死した > 彼らは正義のために亡くなった > 我々は再結集して彼らが成し遂げられなかった無念を晴らすべきだ」(原文)

カミルは “集団意識というものは最も苦痛の少ない思考回路を採用する” という心理ロジックを挙げており、今回のケースは「ロシアのZ作戦を美化する」のがそれに該当するといいます。戦死した英雄たちの死を無駄にしないために、我々は復讐せねばならない、と。しかし、そのように主張しているのは主に60歳前後のシニア世代だそうです。シニア世代は、年齢的に自分が戦地に送られる心配がないので言いたいように言えるということらしい。そのことを裏付けるロシア国内の世論調査がいくつか紹介されていました:その1その2

一方、前線に送られる可能性のある若い世代はZ作戦に消極的だといいます。実際、ウクライナ行きを告げられたロシアの正規の兵士たちが大量に軍隊を辞めてしまうという現象が起きているそうです(動画)。もちろん、戦時中であれば軍からの離脱は厳しく罰せられるでしょうが、いまのロシアは表向きは戦争などしていない事になっているので(あくまで特殊作戦という建前なので)、いまのところ「次の契約は更新しません」と言えば何の問題もなく辞められるらしい…。

ちなみにロシアで所得の低い層にとっては、軍隊に入れば給与や住まいなどで大きな見返りがあるそうですが、そうした特典よりも、やはり戦闘で自分の両足や命を失わない事のほうがよほどベネフィットがあると考えるのは当然でしょう。一方、多大な戦死者+軍からの離脱者のダブルパンチで人手不足になったロシア軍は、貧しい少数民族をリクルートしてウクライナに送り込む、という苦肉の策でしのいでいるとのこと。(ロシア軍の士気が低い一因)

それにしても、ロシアのシニア達がこの戦争に積極的であるということは、国の未来を担う若者たちの命を消耗品のように考えているのだろうか??と、最初は納得のいかない感じもしました。その一方で、このロシアの内情を読みながら、なにやら既視感のようなものも感じる。なんだろう?

そう、たぶん。かつての日本も戦時中はこんな感じだったんじゃないかと。。。いまのロシア世論は、「はだしのゲン」で垣間見た戦時中の日本の世論となんか似てる気がするのです。結局、政権のプロパガンダと自らを正当化したい国民感情が合体すると、ロシアに限らずどの国もこうなるんじゃなかろうか。

いままでは、なぜあれほど親切にしてくれたロシアの人々がプーチンの始めたおかしな戦争を支持するのか分からないと思ってたけど、カミルの指摘でやっと腑に落ちてきました。そして、いまロシアの人々に起こっていることは、よくよく状況をイメージすれば決して理解できないことではない、ということも。

*****

ちなみに、ロシアでいちばん仲良くしてくれた恩人ターニャですが、先月SNS(Vkontakte)で声をかけたきり返事がありません。たぶん、それが今のターニャの精一杯の優しさなのでしょう。何しろ、日本も非友好国になってしまったし、周りの目もあるだろうし、話しづらいよね。
なので、私は私なりにしばらくロシアの動向を注視しつつ、ターニャ達を取り巻く環境を理解していきたいと思っています。

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naochka

長年IT業界でWeb+デザインをやってました。いまはWordPress中心です。やや技術的な話が多いですが、なぜか世界中あちこち放浪してた関係でたまに想い出を綴ってたりもします。 Wall Street Journalを読む会の英語ナビゲーターやってます。(実は帰国子女)

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