6/20。
6/19に開催した「第10回 Wall Street Journalを読む会」の開催報告です。(正式名称:第10回 英語版ウォール・ストリート・ジャーナルを読む会:お金に強くなる英文読解!【初回無料】)
今回も多くのリピーターさんに参加していただきました!皆さんのご意見を少しずつ反映させていただいてまして、毎回アンケートを見るのが楽しみです。
※WSJを読む会についてはこちら。
今回の記事:金融引き締めが始まり、米国市場は潮が引いた状態にも関わらず、なぜか世界を揺るがすほどの大きな破綻は起きていません。 それはどうしてなのか?このままで済むのか?というお話。
Where to Look for the Next Wall Street Blowup
(注:有料記事なので先頭しか見られません)
マッパで海水浴してるのは誰だ!?
今回はお気に入りのWSJコラムニスト、マッキントッシュ先生の記事です。いつも通り辛口なんですけど、表現が豊かで説得力があるんですよね。まず、冒頭からこんな感じでした:
When the tide goes out you find out who was swimming naked, Warren Buffett memorably said. The tide’s definitely gone out in markets this year, but finance has come through with few problems. Is it possible that this time not many were skinny-dipping?
The Wall Street Journal:Where to Look for the Next Wall Street Blowup
かの有名なウォーレン・バフェット氏は「潮が引いたあと、誰が素っ裸で泳いでいたかが分かる」と例えたそうです。つまり、市場から資金が抜けていくと、それまで隠してきた巨額の不正会計やら不良債権を抱えてたところが、隠しきれずに吹っ飛ぶことで表に出る、ということですね。ところが。。。!
今の米国市場がちょうど潮が引き始めた感じなんですけど、今のところ世界を驚かすような破綻のニュースはひとつもなく、どちらかというと平和です。これは一体なぜでしょうか?
マッキントッシュ氏はこの記事で2つの可能性について論じています。
①楽観論:
パンデミックの2年間で、高いリスクをとってた連中はすでに市場から退場済みのため、いまは平和。
②悲観論:
これまでに蓄積してきた問題はいまなお存在しており、これから大きな破綻が起こる可能性がある。
どういうことなのか、順番に見ていきたいと思います。
ハイリスクな問題児は過去2年で既に退場
まずは楽観論のほうです。
ざっくりいうと、コロナ時代の2年間にまあまあ大きな破綻が続いたことで、やんちゃなヘッジファンドの面々はすでに淘汰されていた、という見方です。もちろん、大きな破綻といっても世界を揺るがすほどではなかったのがポイント。それを教訓にして「ハイリスク投資を控えよう」という流れが既に出来ていたため、今のような金融引き締めの時代でもみんな生き残れているのだとか。
たとえば、2021年の記憶に新しいゲームストップ事件。SNSで結託した個人投資家たちが、資金力ではるかに勝るメルビン・キャピタル(大手ヘッジファンド)をボコボコにした、という嘘みたいな本当の話がありました。基本的に、個人が大手に勝つなどという事はあり得ないそうですが、Reddit(掲示板)やRobinhood(投資アプリ)といった新時代のツールを手に入れた人々が大口投機筋に逆転勝ちするというのは、史上かつてない出来事だったとか。
そのメルビン・キャピタルですが、つい先月の5月にファンド閉鎖。しかし、この事件でダメージを被ったヘッジファンドは他にも数多くあり、集中的な売りポジションは見直されたといいます。
また、同じく2021年にはアルケゴス・ショックがありました。アルケゴスは、クレディ・スイスや野村ホールディングスといった大手の投資銀行から多額の貸付を受けていたヘッジファンドでした。しかし、そのアルケゴスが債務不履行に陥ったため、巻き添えを食らった投資銀行はトータルで一兆円を超える損失を被る羽目に。。。(日経新聞に、野村の損失は3100億円だったという記事あり)
クレディ・スイスに至っては、この事件がきっかけで「もうヘッジファンドにはお金貸さない!」と方針転換したというから、影響の大きさが伺えます。つまり、ハイリスク投資を避ける流れになってきたということです。
他にも、イングランド銀行でも金融引締やるやる詐欺で市場が乱高下するなど、コロナ後の世界では予測不能な変動性が常態化してきているため、警戒感が強まりました。また、破綻らしい破綻といえば、ロンドン取引所におけるニッケル市場の取引停止事件とか、仮想通貨のテラの大暴落とかいろいろ事件はあったものの、いずれも世界を揺るがすほどの出来事にはなりませんでした。
さらにいうと、リーマンショック以降の改革のおかげで銀行が非常に強い体質になった、というのも巨大な破綻が起きていない理由のひとつのようです。いまの銀行は、現在のように市場の状況が悪いときでも耐えられるようになってきているのだとか。こうしたことが複合的に作用して、いまのところ世界を揺るがす破綻劇が生じていないのかもしれません。
時間差で金融破綻を引き起こす “べズル”
次に、悲観論のほう。
キーワードとなる “べズル” という言葉の解説があったので引用します:
Long before Mr. Buffett discussed naked swimmers, economist John Kenneth Galbraith invented the “bezzle”—fraudulent losses accumulated in the good times that are only discovered when the economy weakens. After a decadelong bull market with only the briefest of interruptions in 2020, there could be plenty of bezzles yet to emerge.
The Wall Street Journal:Where to Look for the Next Wall Street Blowup
べズル(bezzle)というのは経済学者ガルブレイスによる造語で、「景気の良い時にじわじわ蓄積され、経済が悪化したときにやっと発覚する不正損失」のことを指します。※造語ですのでもちろん辞書には載ってません。
過去に実際にあったべズルの筆頭として、2000年のドットコムバブルの崩壊のあと、18ヶ月も経ってから突然崩壊した2001年12月のエンロンショックとの関連が示唆されていました。エンロンは不正会計を隠していただけでなく、レバレッジをかけた電力取引で巨額の損失を出したことは有名ですが、それが表面化するまでにだいぶ時間がかかった(約1年半)、ということが指摘されていました。
また、2007年の住宅バブル崩壊のあと、一年後の2008年に巨額の損失で破綻したリーマンショックもべズルだそうです。これがその後、金融市場と実体経済の両方で何年にも渡ってスキャンダルが続くきっかけになりました。言われてみればたしかに、世界を揺るがす巨大な破綻というのは、一定の期間を経たあと時間差で起こっていますね。
さらに過去に遡ると、1994年のテキーラ危機、1997年のアジア通貨危機、そこから波及した1998年のロシア財政危機、といった一連の通貨危機もまた、ウォール街に跳ね返ってくるまでに1年以上かかったといいます。そしてマッキントッシュ氏はいまこそ、こうしたネガティブな連鎖反応が起こる条件を満たしつつある、と見ているようです。
過去の教訓が役に立たないリスク
悲観論の続きです。ここまでは過去の事例を引き合いに出してきましたが、ここからは未来の話。
いま現在、歴史の教訓が役に立たないリスクが2つあるそうです。
ひとつめは、誰もが知ってのとおり、この2年ほどの間にコロナ給付金によって米国市場にかつてないほど多額の資金が溢れたこと。潤っていた間はよくても、これからFRBによる金融引締めが厳しくなるにつれて、債務の問題が浮上してくる可能性があるといいます。ここまではWSJ会でさんざんやった話なのでなんとなくイメージできますが、もうひとつはマニアックな話でした…。
それは、未知のプライベートデット(PD)が大量に存在するという問題です。PDとは、信用力の低い企業に対してノンバンクが投資家から集めたお金をローンとして貸し出すことですが、平たくいうと超絶ハイリスクな投資形態なんだとか。とはいえ投資家も仕方なくPDに手を出している所があるので、市場に魅力が戻ればPDからは引き上げることになるでしょう。そうなったとき、PDに頼っていた企業の資金繰りが難しくなる可能性があり、ジワジワと経済を萎縮させる可能性があるとのことでした。
というわけで、結論からいうと「大規模な金融破綻は、これから時間差でやってくるのではあるまいか」という疑いのニュアンスで締めくくられておりました。その懸念が当たるかどうかは分かりませんが、マッキントッシュ氏の深読みには説得力があるな〜、と思った次第です。
次回のWSJ会は7/17開催予定です!
遊びに来てね〜♪
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7/17開催分:
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