先月、曲技飛行の世界選手権で出会ったウクライナの女性パイロット達の話を書いたけど、派遣社員にすぎない私が国際競技会にオフィシャルで出入りさせて貰ってたのには訳があります。
それは、私が30代のころアメリカでヒコーキ免許を取得したのが発端です。日本でいうところの「自家用操縦士技能証明書」という免許で、平たくいうとセスナ機を飛ばすことができます。実際、10年ちょっと前は近所の飛行場でしょっちゅう機体を借りて飛んでたりもしました。(とはいえ、日本の機体レンタル費はめちゃくちゃ高くて、当時は派遣の給料すべてフライトにつぎ込んでました。orz)
そんなに頑張ってたなら、よほど空が好きだったんでしょうね?
。。。と言われると全然そんなことはなくて。
なんというか、もともと空には何の興味もなし、ほんと航空ファンの皆さんゴメンナサイと思うくらいしょうもない理由で空の世界に入ったクチです。
パイロットを志した経緯
きっかけは、例によって20代後半の離婚でした。
簡単にいうと、前夫が私を捨てた2ヶ月後に40代の金持ち女と再婚、みたいな話でして。
まあ、後味の悪い離婚なんてよくある話とはいえ、当時の心境を振り返ると「アイツら2人まとめて処刑してくれるわ」と誓うくらい憤ってました。その一方で「40代のBBAに負けた私に存在価値なんてない」という無価値感に耐えきれず、なんかデカイことに挑戦して挽回したいと思ってました。。。
そんなある日、ツーリング先のキャンプ場にイケメン足なが兄さんが現れてこう言ったのです。「僕はいつかアメリカ行って飛行機の免許を取るんだ」「えっ、飛行機の免許って誰でも取れるんですか?」「誰でも取れるさ、アメリカに行けばね」「ほほう…アメリカね…」
知らなかった。アメリカって外国人でも飛行機免許取らせてくれるんだ。ていうかアメリカなら子供の頃ずっと住んでたから地元みたいなもんだしな。それに、もし免許とって空飛べるようになったら、上空からアイツらの屋敷に鉄アレイとかウンコとか落としたいよな! それめっちゃいいアイデアじゃん!ワクワクしてきた!よーし飛行機の免許とろーっと♡ (※航空法違反です絶対にやめましょう)
ツーリングから帰った私は「飛行機 免許」でググって一番てっぺんに出てきた航空留学サイトをひらき、資料請求ボタンをポチったのでした。
。。。こんな理由で飛行機の免許取ろうとするアホはいないと思いますが、久々にアメリカを再訪したい気持ちも相まって決断だけは早かったです。こうして、行き場を失っていた大量の怒りエネルギーを「ヒコーキ免許保持者になる」という健全な(?)目標に変換することに成功しました。
日本の航空留学ビジネスの闇
しかし、そのアメリカ行きが、まあまあ闇が深かったという。
あの航空留学の会社は「◯◯パイロットスクール」などと名乗ってたけど、今にして思うとイイ感じで詐欺だったと思います。。。
- 説明会で「免許取ったらプロの操縦士として就職できる!」的な夢物語を聞かされる。
→そりゃ事業用免許が必要だっちゅーの。しかも言ってる本人はただの自家用免許どまり。 - パイロット適性検査と称し、子供だましの簡易テストで「あなたはA判定」と入校を煽る。
→全員に同じこと言ってるやつ。そんな安っぽいA判定、むしろいらない。。。 - 授業料が100万円くらいかかる。なんと座学の授業は受け放題で大変オトクだと言われる。
→じつは講師はプロではなく卒業生のバイト、カリキュラムは適当、実技指導一切なし。 - 渡航前試験に通ればアメリカに航空留学できるが、最低150万から追加で必要になる。
→これは実費だけど、なんやかやで高い手数料とられる。トラブった際も保障なし。
当時は無知だったので「まあ、パイロットになるにはそのくらい必要だよね!頑張って派遣で稼いでみせるぜ!」と思って授業料100万円をせっせと分割払いで振り込んだけど、フタをあけてみたら似たような感じで騙されてる人々がうじゃうじゃいました。
今なら分かるけど、日本のスクールに100万円も払う必要ナッシングです。直接アメリカのフライト訓練校のサイトに申し込んで、留学ビザの手続きとかも自分でやれば、日本の業者に1円も払う必要ありません。ただ、現地での訓練費用と生活費はかかります。私は敢えてド田舎に行って節約したので半年で150万程度で済みましたが、都会だと高くつきますし、為替レートによってもドーンと金額変わります。
ちなみにその学校では国内で好きなだけ座学が受けられるので、みんな必死に出席して勉強してたけど、実際にアメリカに行けるのは筆記テストと口頭テストに合格した一握り。ほとんどのスクール生は延々と合格できず、何年もずっと座学ばかりで日本から一歩も出られない人たちがゴロゴロいました。中には、パイロットスクールに通ってるという肩書(?)だけで満足してる学生もいたから、どっちもどっちなんですけどね。
ちなみに座学の講師ですが、卒業生がバイトで教えるお粗末なものでした。結局、ほとんどのスクール生はこのしょうもない座学の授業ためだけに100万円払わされてて、アメリカ渡航もできず飼い殺し状態。私の記憶では、クラスにいた受講生のうち渡航できたのは1割未満だったので、経営陣はさぞかし儲かっただろうなと思います。
そんなビミョーな商売のスクールでしたが、少なくとも選抜を通った一部の学生はちゃんとアメリカに航空留学できてたし、しっかり免許とって帰国する人も何人かはいたので、いちおう「パイロットスクール」の看板は嘘ではなかったとも言えます。。。いちおうは。(私も最初のころは、そうやって見事に免許取って凱旋を果たした先輩たちを羨望のまなざしで見ていたものです)
しかし当然ですが、アメリカの訓練校まで行けたとしても必ず免許取れるわけじゃありません。
アメリカ人の教官とコミュニケーション取れないとか、訓練校によっては機体繰りが悪くて予定遅れまくったり、使う飛行場によってはATC(航空無線)の難易度が高かったりで、ずっと訓練終わらないまま資金が尽きて帰国。。。みたい人たちも一定数いました。(で、そういう人たちは日本のスクールを訴えたり、某掲示板にスクールの悪口書いたりしてた)
まあワタクシ様は「鉄アレイとウンコ投下」という壮大な目標がありましたから、1年間ずっと派遣で働きながら座学でしっかり勉強して、サクッと留学試験にも合格し、無事にアメリカ行きの切符を手に入れた次第です。やはり持つべきものは高い目標であります。
※日本でカモにされてた皆様のほうがよっぽど高い志を持っていた可能性についてはノーコメントです。
アメリカのヒコーキ免許の考え方
さて、期待に胸を膨らませて到着したアメリカのフライト訓練校でしたが。。。
その実態は日本のパイロットスクールもびっくりのずさん運営だったという。
本来、アメリカ航空局が定めるフライト訓練校のカリキュラムは、毎日きっちり飛べば3ヶ月以内で卒業できるようにできています。しかし、この訓練校は廃校寸前のダメ経営すぎて、所有機はたった2機(それもリース)、整備ボロボロでしょっちゅうハンガー入り(飛べない日が何日も続く)、なのに訓練生を受け入れすぎてスケジュールは常時パンク。。。みたいな状態だったので、なんだかんだで卒業まで最短でも6ヶ月くらいかかる有様でした。
ちなみに、飛行機の免許が3ヶ月で取れちゃうなんて甘すぎない?と思ってる人はアメリカを理解していません。そもそもアメリカではクルマの免許だって1日で取れる国です。だから取得までに3ヶ月もかかるヒコーキ免許は、実は現地ではかなーり難しいライセンスと見なされているのです。とはいえ、なんだかんだで普通に取得できちゃうのも事実なので、アメリカでは自家用ヒコーキはクルマに次いで割と身近な乗り物だったりもします。
さらに、日本とアメリカの発想が根本的に違うのが「免許」に対する考え方です。クルマ免許ひとつとっても、日本人はクランクやS字カーブなどの難しい運転技術をマスターした人じゃないと危険だから公道には出さない、という方針です。だから教習所の教官はダメ出しが厳しいし、ちょっとのミスも許されず、検定落ちたら延々やり直し、卒業までに時間もお金もかかります。よく言えば、生徒を一人前にするまでが教える側の責任、という考えですね。日本の操縦訓練も同様で、一人前と認められないうちは決して免許は貰えません。
アメリカは逆です。「とりあえず一通りの操縦ができるようになった者には積極的に免許を与えよう」という考え方。飛行教官の責任は一人前の操縦者を育てあげることではなく、半人前でもいいから生徒に最低限の検定課題をクリアさせることです。だからアメリカの教官は教え方も優しいし、褒めて伸ばすし、多少アラがあっても生徒をどんどん卒業させようとする。すると操縦技術は半人前でも、法律上はもうパイロット(機長)なんだから全ては自己責任となります。本当に一人前になりたかったら、責任ある機長として公の空で実践経験を積むのが筋だろうと考えられているのです。
こうして免許のハードルを低くすることで、教える側・習う側双方のコストが抑えられますし、ライセンス人口が増えることで業界も底上げされるわけです。アメリカが航空大国である理由は、こういう考え方がベースにあると思われます。
アメリカ屈指のクセつよ訓練校
さて、自由=自己責任という考え方はフェアなんですが、それゆえフライト訓練校の良し悪しも松竹梅ピンキリだったりします。で、私が行ったところはアメリカでも最低レベルにいいかげんな訓練校でした。訓練にまつわる想い出のほとんどは、そのダメさ加減に関するものです。(゚∀゚)
いろいろとツッコミどころ満載のフライト訓練校だったので、魔境のようなワイルドな想い出はたくさんあります。良く言えば、卒業生の危機管理能力はかなり高いほうではないかと。(そもそも整備がいいかげんな機体で飛ばされるため、まあまあ命がけではありました。あんなんでよく死者出なかったよなー。。。と、今でも思う。。。)
あと、ダメ学校ゆえにかなり訓練費用が安かった!という事には今でも感謝しています。何しろ1時間60ドルで飛ばせてくれる学校なんて、他にはありませんでしたから。アメリカ屈指の安さが評判で、アジアやヨーロッパなど世界各国から航空留学生が来ていて、なかなか国際的でした。
。。。なんかいろいろ物議を醸しそうなエピソードを思い出してきたけど、長くなりそうなのでこのへんで一旦やめときます。当時のアホな訓練風景を記録したサイトを貼っとくので、おヒマな方はご笑覧ください:FALCONHEAD
個別のエピソードについては、たまに気が向いたら綴ってみようと思います。(^_^;)
追伸:ここで紹介している日本のパイロットスクールとアメリカのフライト訓練校、2つとも経営悪化してとっくの昔に廃業してます。探しても見つかりませんのであしからず。
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